自己慈悲のすすめ

日々の仕事や生活の中で、プレッシャーに押されて、ふと息苦しさを感じることがあります。

そんな中で、多くの人が「自分を責めること」に、いつの間にか慣れてしまっているように思います。

 

失敗したときに、「もっと努力できたのに」とか「あのとき、もっと賢く動けたかも」と、自分を責めてしまう。

そんなふうに考えてしまうのは、ごく自然なことかもしれません。

 

でも、その自己批判が強くなりすぎると、まるで自分の心にムチを打ってしまっているような状態になります。

それが続くと、心のエネルギーがすり減り、気持ちが沈んでしまったり、やる気が出なくなったりすることもあります。

 

ベッドから起きるのもしんどい…。

そんな日があるのも、決しておかしいことではありません。

だからこそ、そういうときには、自分の心にそっと寄り添う時間が必要です。

「心の姿勢をやさしく整える」ような、そんな時間です。

 

そのための方法のひとつが、「自己慈悲(セルフ・コンパッション)」という考え方です。

 

この言葉を聞いて、「それって甘えじゃないの?」とか、「自分に甘くしていいのかな」と感じる人もいるかもしれません。

でも本当は、自分にやさしくすることは、弱さではなく、心を回復させるために必要な力なんです。

 

ここでご紹介したいのが、「自己慈悲エクササイズ」と呼ばれる、短い瞑想のような時間です。

15分ほど、ベッドの中やお風呂の中など、リラックスできる場所で試してみてください。

まずは、こんなふうに自分に語りかけてみましょう

  • 私は毎日、がんばっていろんなことに挑戦している。

でも、その挑戦が思っていた以上に大きなものだったのかもしれない。

失敗してしまったのは、その山が本当に高かったから。

  • 自分が育ってきた環境や、これまでに経験してきたことが、今の気持ちや状況に影響している部分もきっとある。

それは私だけじゃなく、みんなに共通すること。

  • 私は完璧じゃないし、ずっと健やかでいるのも難しい。

だから、「つらいのは自分が弱いせい」と思わなくていい。

  • いま思うようにいっていないことが、すべて自分の責任だとは限らない。

一人で背負いこまなくて大丈夫。

  • SNSやニュースでは、成功している人ばかりが目に入る。

けれど、実際には、人に見えないところで失敗したり、つまずいたりしている人のほうがずっと多い。

  • 「運なんて関係ない」と言う人もいる。

けれど、人生にはたしかに運やタイミングといった、どうにもできない要素もある。

努力だけで説明できないことだってある。

そして、ひとつだけ大切なことを思い出してほしいのです。

 

人の価値は、「成果を出すこと」だけで決まるわけではありません。

 

何を成しとげたかよりも、「その人がそこにいること自体」に意味があると、私は思います。

 

子どものころ、あなたを大切に思ってくれた人がいたなら、きっとその人たちは、あなたが何かを達成したからではなく、ただ「あなたであること」に価値を感じていたはずです。

 

そのやさしいまなざしや言葉を、少しだけ思い出してみてください。

成果とは関係のない、無条件の愛の記憶が、あなたの中にもきっとあると思います。

今がとてもつらくて、「この状態がずっと続くのでは」と不安に思うかもしれません。

でも、それは心が一時的に危機を感じているから、そう思えてしまっているだけかもしれません。

 

この先のことを一気に考えようとしなくても大丈夫です。

まずは、1時間ずつ、今この時間を静かに過ごしていきましょう。

 

少し陳腐に聞こえるかもしれませんが――

今のあなたにとって、いちばん必要なのは「がんばること」ではなく、「休むこと」です。

 

どうか、自分にやさしくする時間を、ほんの少しでも持ってあげてください。

それは、心を回復させるための、やさしくて確かな一歩になるはずです。